佐久間内科小児科医院 二本松市,二本松駅 内科,小児科,心療内科

子育て支援

もくじ

ページ作成にあたり参考とした文献

  1. 1)内海裕美.アドボカシーとしての育児支援.小児内科2001;33(10):1367-1371.
  2. 2)佐久間秀人.よりよき病状説明とは何か(アンケート調査結果から)―患児保護者に納得と安心を提供するために―.外来小児科2005;18(2):120-127.(PDFファイル無償ダウンロード出来ます)
  3. 3)佐久間秀人、河村一郎、内海裕美.あなたの声を聴きたくて―ロールプレイにより学ぶ、日常診療におけるカウンセリング的対応について―.外来小児科2008;11(1):52-58.(PDFファイル無償ダウンロード出来ます)
  4. 4)白石正久.発達の扉<上>.京都:かもがわ出版;1994
  5. 5)白石正久.発達の扉<下>.京都:かもがわ出版;1996
  6. 6)吉崎達郎、明橋大二.子育てハッピーアドバイス 小児科の巻.東京:1万年堂出版;2009
    7)広瀬宏之 発達障害にともなう二次障害とは?.チャイルドヘルス2011 Vol14 No11

※このページでは、障害の「害」を【碍】と表記させていただいております。 

子育て支援について

 ―子育てに悩みはつきものー
よく耳にする言葉です。

 いつから離乳食をはじめたらいいの?
もうすぐ1歳になるのにつかまり立ちも出来ないけど、大丈夫かしら。
今朝は朝から熱っぽい。元気はあるけど、病院へはどこまでになったら連れて行けばいいの?

 お母さんたちは(もちろんお父さんも)、いろんなことで悩みます。
悩みの種は、取るに足らない些細なこともあるし、その時に解決しておかなければ、後々深刻な事態を招きかねない大問題のこともあります。
しかし、悩んでいるお母さんには、どれが重大でどれが重大でないかはわかる由もありません。

 子育てに精一杯な毎日。
不安やよろこびの中で、一生懸命生きている。

 「小児科」を標榜する当院は、お母さんたちのそんな悩みに、もっともっと耳を傾けるべきなのです。
しかし、日々の診療の中で、どこまでのことが出来るのか。
「子育て支援」とは、何をどうすればいいのか。
試行錯誤の毎日です。

 心がけていることは、子育て中のお母さんやお父さんに、孤独感を抱かせない。
子どもを育てるのは親の責任です。
でも、親だけじゃない。

 あなたが困っている時は、身近に居る誰かが手を差し伸べる。地域が助ける。

 悩んだら、遠慮せず打ち明けてください。
悩みを引きずったまま過ごさないでください。
不安な目で子どもを見ないでください。
不安な目で見つめられると、子ども自身が不安になります。

 不安を抱いたままではいけないのです。

次へ→ 今、子どもたちに大切なこと

▲ ページTOP

今、子どもたちに大切なこと

抱っこの効用


  敬愛する東京都文京区、吉村小児科・内海裕美先生のお言葉を紹介いたします。
〜子どもの育ちに大切なこと〜



「食べる」、「眠る」、「遊ぶ」。
  身体的、精神的両方の面で、子どもの発育には欠かせないものです。
  そしてもう一つ。
  愛されていること。

  我が子を愛さない親などいません(ここでは、そう信じます)。
  愛してはいるが、その気持ちを伝えていない。
  伝えたいが、伝える方法がわからない。
  伝えているつもりだが、どうもうまく伝わらない。
  診察室にて、いろんな親子に出会います。

「愛されているという自信」は、「認められているという安心感」から生み出される。

  ここからはじめることといたしましょう。



  親である限り、我が子には「立派な大人になって欲しい」と願うものです。それは当然にしても、あまりにその想いが強くなると、我が子を周りと見比べ、「(我が子が)劣っているのではないか」と気がかりになったりします。
  あるいは。
  周りの子どもたちより、少しでも抜きんで欲しい。優れた存在であって欲しい。
  意識せざるとも、周りと我が子を「比較する」ようになります。

  子どもにとっては、いい迷惑です。
  親の期待に応えるために、がんばらなくてはなりません。
  とはいえ、そこでがんばってしまうのも、また子どもらしさです。
  子どもは、お母さんお父さんが大好きなのです。

  がんばったから誉める。
  そういう子育ても「アリ」でしょう。
  でもね。がんばっていても、がんばっていなくても、ありのままの子どもを認める。なんでもないこと、あたりまえのことでも、誉める。
  そんな子育ても、あっていいのでは。

  変わらなくていいんだよ。あなたはあなたのままでいい。
  そんなメッセージが伝われば、それだけで子どもは安心するでしょう。
  認められているという安心感。愛されているという自信。

  変わらなくていいんだね。
  ぼくはぼくのままでいい。わたしはわたしのままでいい。
  その「安心感」が、「自己肯定感」をもたらしてくれます。
  自分は自分でいいんです。

  生まれてきたんだ。生きてるだけですごいんだ。




  自己肯定感がしっかりと芽生えると、次に、「自分って何?」ということに想いが及ぶようになります。難しく考える必要はありません。
  子どもの視点に立ってみてください。
  ぼくって何?
  ぼくはママとパパの子ども。
  それだけでいいんです。
  アイデンティティー。

  ママとパパに愛され、認められているという自信があれば、自分の存在が「かけがえのない尊いもの」になります。
  この世界に、たった一人しかいない「自分」。
  自尊感情。セルフエスティーム。
  残念なことに、日本の子どもたちは、このセルフエスティームのレベルが低いそうです。



  まとめますと、このようになります。
「愛され、認められ育てられた」という自信が、アイデンティティーにつながり、そこからセルフエスティームが芽生える。
  自分を大切に思う気持ちがあれば、自分を傷つけたり、ましてや自らの命を絶つような発想も生まれにくくなるでしょう。
  さらには、相手を大切に思う気持ち。
  自分を大切に思えるからこそ、相手を大切に思えるようになるのです。

  子どもの心にセルフエスティームを育むためには、どうすればいいのでしょう。
  子どもに、安心出来る居場所を提供すること。

  内海先生によれば、「抱っこ」だそうです。

  抱っこすることで、子どものぬくもりを感じ、子どもの声を聴く。
  同時に。
  大人のぬくもりを伝え、大人の声を聴かせましょう。

  子どもが、抱っこして欲しい時を逃さず、抱っこ。
  動物の親子がじゃれ合うように、人間の親子もじゃれ合えばいい。目的もなく、意味などなくてもいいんです。
  ただ、伝えてあげてください。

  変わらなくていいんだよ。
  あなたはあなたのままでいい。

次へ→ いざというときのために

▲ ページTOP

いざというときのために

 思いもかけない事故や病気に見舞われることは、どの年代でも同じです。とはいえ、子どもには特に多いものです。

  事故や病気に予防が一番なことは、今さら申すまでもないことです。
  しかし、どれほど注意してもやむを得ない場合もあります。

  ここでは、そんなときにまずどのような対応をすればよいか。被害を最小限に抑えるための最善策について、簡単にお伝えいたします。
 

 急な発熱

  呼びかければ反応し、目つきがしっかりしてさえいれば心配はいりません。
ただし、生後3ヶ月未満の赤ちゃんの場合には注意が必要です(「診療方針」のページ、「発熱について」参照)。

額をタオルなどで冷やすことで本人が気持がいいようであれば、冷やしてあげましょう。嫌がるのであれば無理に冷やす必要はありません。
熱さまし用冷却シートをおでこに貼っても、解熱という点では何の効果もありません。「気持がいい・・・」と感じるかもしれない、程度のことです。
むしろ、口や鼻をおおってしまう危険がありますのでご注意ください。

 急にゼーゼーはじまったとき、咳き込んだとき

  咳が出るのは、気道に痰や分泌物、ホコリなどがからんだためです。よけいなものを追い出そうとして咳が出ます。頭を下方に向け背中をトントン叩いてあげましょう。水分を飲ませ(ジュースやお茶でもOK)、加湿器などで気道の乾燥を防ぐことも有効です。呼吸が苦しくて横になれないときは要注意です。
 

 おなかが痛い

  突然のおなかの痛みは、腸の流れがつまり気味によることがほとんどです。暖めてあげた方がいいでしょう。おへそをはじまりとして、「の」の字を描くようなマッサージが有効なこともあります。
ご自宅で浣腸する場合は、薬局で販売されている、年齢に応じた製剤をお使いください。便が出たら、色をよく観察し、真っ黒や真っ赤であれば慌ててください。最寄りの医療機関を受診しましょう。
 

 ぶつかった

  頭を打ったとき、大声で泣いていればまずは抱っこしてあげてください。それだけで安心します。こぶが出来たならば、水道水で冷やしたタオルをあててください。頭以外のところでも、冷やすことが一番です。
 

 切り傷、すり傷

  出血があれば、きれいなガーゼ、ハンカチで圧迫してください。出血が止まった後、温水で洗いましょう(水道水で可)。傷は消毒したり、ガーゼでおおってはいけません(ウェット療法のページ参照)。
 

 やけど

  お湯がかかったり、間違ってストーブに触ってしまったときは、すぐに水道水で冷やします。20分程度を目安にしてください。水ぶくれが出来れば、むやみにつぶさない方がいいでしょう。
服を着たままのやけどのときは、服を脱がさずに服の上から水をかけてください。

次へ→ 発達支援

 

▲ ページTOP

発達支援

 子どもの発達には、その子それぞれのスピードがあります。
8ヶ月で早くもつかまり立ちする子、1歳6ヶ月でもまだ歩かない子。
1歳ちょっとで「ママぁ・・・」と呼ぶ子、3歳になっても何も話さない子。

早く歩き出したから「よい子」ではありません。話が出来ないから「だめな子」ではありません。
本当の意味での「発達支援」とは、早く歩き出せるようにうながすことでも、言葉を覚えさせることでもなく、その子がその子らしく、ゆったりと育っていける環境づくりと考えます。

言葉の遅れや、落ちつきのなさを、マイナスと捉えているママやパパが多くいらっしゃいます。
たくさん言葉を発し、おとなしくしていればおりこうさんに見えるかもしれません。それは「大人の基準」に過ぎないのです。子どもは本来、言葉より体が先に動いてあたり前でしょう。
ここでは、俗に云う「だめな子ども」にされがちな行動や特徴について考えます。
児童精神科や心理学が専門ではありませんので、常日頃感じていることを、率直に書かせていただきます。

 

言葉の遅れ


生後4ヶ月を過ぎた頃の赤ちゃんは、目の前にいる人の顔を見ながら盛んに「アー、ウー」と声を出しはじめます。「喃語(なんご)」とよばれます。言葉にはなっていなくとも、赤ちゃんなりのメッセージを伝えようとしているのです。

10ヶ月頃になると、見えたものを嬉しそうに「指をさす」仕草がみられるようになります。見つけたものを、お母さんに「あれあれ、○○だよ」と教えたいのかもしれません。「あれはなあに?」と、問いかけているのかもしれません。いずれにせよ、「モノには名前がある」ことを気付きはじめた証しなのです。
言葉にはならなくとも、子どもには伝えたいたくさんのことがあります。

1歳半頃から、言葉は日増しに増えていきます。単語の数が多くなると、なんとなく脳の発達が進化したように思われがちですが、大切なのは数ではありません。
伝えようとしている何かがあるか、相手から何かを受け取ろうとしているか、それが一番のポイントです。

他のお子さんより言葉数が少ないとお感じならば、お子さんが何かしらのメッセージを発していないか、よく観察してあげてください。また、あなたの伝えたいことをわかろうとしているかどうか、みてあげてください。

何かを伝えようとしている、わかろうとしている、伝達する。
コミュニケートしようとしている素振りがあれば、心配はいりません。
言葉は後からついてくるものです。

「このまま言葉が出なかったらどうしよう」
そんなあなたの不安なまなざしが、お子さまをかえって不安にさせるのです。

 

落ちつきのない子


じっと座っていられない。
集中力がない、何かはじめてもすぐ飽きる。他のことに気が散ってしまう。
そんなお子さんの様子に、「もしかしたら、発達に問題があるのでは・・・」。
親としては、そんな不安を抱きがちになるものです。

注意力がない(不注意)、やたら動きが激しい(多動)、何をしでかすかわからない(衝動性)。
この三つを特徴とする発達の障碍の一つに、「注意欠陥・多動性障碍(以下、ADHD)」があります。幼児期のADHDは男の子に多いとされ、年長児では女の子に目立ってきます。女の子では、「不注意」が症状として出ることが多いようです。

「多動」が特徴とはいっても、3歳程度の子どもでは落ちつきがなくてあたり前です。本格的にADHDを疑い、専門的な対応が必要となってくるのは3歳以降でしょう。

興味があることなら、危険がない限り、どんどんさせてあげたいものです。
3歳を過ぎて落ちつきがなくても、それだけでADHDを疑う必要はありません。
何故落ちつきがないのかを、まずはみてあげてください。興味を抱いた気持ちを、受け入れてください。お子さんが興味を抱いたことに、共感してあげてください。

ママやパパが一緒に興味を持ってくれることがわかれば、子どもはそれだけで安心し、気持ちが落ちついてくるものです。

 

すぐキレる子


思い通りにならないことがあると、大声で泣きわめき、壁を蹴りモノを投げつけ、ひどい場合には床に頭をガンガン打ちつけるといった「自傷行為」に及ぶお子さんがおります。突如として部屋を飛び出す「逃避行動」にうって出るお子さんもいらっしゃいます。

お母さんは、「このままでは我慢の出来ない人間になるのではないか」、「将来、犯罪者になってしまうのでは」と、不安になるものです。

キレるのには、キレるなりの「理由」があります。まずはそれが何か、見極めてあげることが大切です。とはいえ、親子ともども冷静さを失った状況であることがほとんどのため、親は子どもを抑えつけようとし、抑えつけられるほど、子どもはさらに逆上する悪循環に陥るのが常です。

何故キレたのでしょう。
叱りつける前に、まずは考えていただきたいものです。
キレる理由として、
兄弟や友達とのおもちゃの取り合い、(お菓子など)もっと食べたいのに途中で取り上げられた、見たいテレビなのにチャンネルを変えられた、思うほど上手に絵が描けない、ママが弟(または妹)の世話ばかり焼いて、自分のことをかまってくれない、などがあります。

子どもには、「主人公でありたい」、「上手にやり遂げたい」願望があります。願望をかなえるために、何事も一生懸命になるのです。思い通りの成果が得られれば、達成感で一杯になり、この次もがんばろうという気になります。
問題は、努力が報われなかったときです。やり場のない怒りや不満をどうすればいいのか。

もう一回がんばってみようと、再挑戦する子どももいれば、そこでキレてしまう子もおります。願望が強いほど、キレる度合いも強くなるのかもしれません。キレることも自己主張の一つと考えれば、頭ごなしに叱りつけても逆効果のような気がします。それでなくともやり場のない気持ちが、ますます追い込まれてしまう。

キレているそのときは、(危険がないことを確認しつつ)放っておくのが一番です。
落ちついた頃を見計らって、がんばったことや、あるいは自分なりに我慢したことを誉めてあげてください。キレたことを認める必要はありません。しかし、次はどうすればキレずにすむか、一緒に考えてあげてください。(キレてしまったことを)本人はそれなりに後悔しているものです。

あらかじめ、押し入れの中や、部屋の中に大きめの段ボールを準備するなど、キレてもいい場所を決めておいたり、その時になったらつくるのも手かもしれません。何をしても危険がないような安全地帯を設定しておくのです。
どうしようもないときは、そこに行くように約束する。
守れたときは、そこまで我慢出来たことをしっかりと誉める。

何回か繰り返すうちに、キレても何の得もないことを本人が気づいてくれる筈です。
辛抱強く、待ってみては如何でしょうか。

次へ→ 発達障碍について

 

▲ ページTOP

発達障碍について

発達障碍とは

 横須賀市療育相談センター広瀬宏之先生は、発達障碍を以下のように定議されております(文献7)。
「人が生きていくのに必要なさまざまな能力のうち、いくつかの能力の発達が遅れ、その結果として日常生活のなかでうまくいかないことが生じている状態」。

 発達障碍は、広汎性発達障碍(自閉症スペクトラム)、注意欠陥/多動性障碍、学習障碍などをさす場合がほとんどです。知的発達の遅れのみの場合は「精神遅滞」として、発達障碍とは分けて対応されることが多いようです。
 下図に、代表的な発達障碍を示し、以下にそれぞれの特徴を簡単に記します。

 

 

 一人の子どもに、何種類かの発達障碍が重複してみられることもあります。それぞれの発達障碍の境界がはっきりしているわけでもありません。
それ故に、一人一人の子どもが必要とする支援を、いろいろな角度からみていくことが大切となります。
 

精神発達遅滞

 知的発達の遅れがあり(知能指数70以下)、生活全般において適応能力が乏しいと判断される場合を指します。必要に応じて、個別的な支援や指導が受けられる教育環境の整備体制が重要となります。
 

広汎性発達障碍(自閉症スペクトラム)

 人との関わり方(コミュニケーション能力)、集団行動(社会的適応能力)、切り替えや応用力(想像力)の3点に難しさがある場合です。
 コミュニケーション能力に問題があるため、知的な部分や言葉に遅れがみられることがあります。その点、アスペルガー症候群や高機能自閉症では知的障碍を伴わず、高機能広汎性発達障碍として区別されます。以前より「自閉症」としてひとくくりにされてきましたが、ケースによってはいろいろな症状があることがわかってくるにつれ、最近では「自閉症スペクトラム」という表現を用いることが多くなっています。

 コミュニケーションや社会性障碍により、他人の気持ちや暗黙的なルールの理解が難しかったり、集団行動が苦手などの特徴がみられます。先の見通しがつきにくく変化や変更への適応が苦手、特定のモノに対する強いこだわりや反復的な行動、興味やパターンが限られているなどの特徴は、想像力の発達障碍によるものです。
 物事の特有の解釈や感覚の受け止め方など、子ども本人の発達上の特徴を周りの大人たちがきちんと理解し、本人の目線で対応することや、混乱を少なくする工夫が何よりも大切となります。

 アスペルガー症候群については、後ほど詳しく説明いたします。
 

注意欠陥/多動性障碍

 すぐ気が散る、忘れっぽいなどの「不注意」、落ち着きがない、飽きっぽいなどの「多動」、突然何をしだすか予測不能などの「衝動性」を特徴とします。小学生の3~5%に認められると云われ、3歳以下の子どもでは皆この傾向があります。小学校低学年では男の子に多く、主に多動と衝動性がみられます。高学年になると女の子に不注意の形で多くみられるようになります。
 

学習障碍

 知的発達の遅れは認めないものの、読み書きや計算など、特定の学習過程に苦手さがあり、修学上の困難をきたすものです。注意欠陥/多動性障碍など、他の発達障碍に併存することが比較的多くみられます。子ども本人の学習パターンに合った指導と柔軟な対応をすること、得意分野を伸ばし、褒めることで自信を持たせることが大切でしょう。
 

二次障碍について

 自閉症スペクトラムに限らず、発達障碍の子どもは、独りだけでは周囲とうまく関わりを持つことが苦手です。身近にいる大人がその子を理解し、その子に合った環境をつくってあげなければ、モノや人にあたる、暴力をふるう、脱走する、自傷行為などの、問題行動を起こすことがあります。それを「二次障碍」とよびます。その子なりのSOS、息苦しさを訴える「心の叫び」とも考えられます。

 二次障碍そのものが、その子の本質と見間違われる場面も多くあるようです。
 予防のために、教育や福祉、医療関係者と保護者との連携が重要となります。
 

支援なき診断は無意味

 発達障碍では、早い時期からの医療的な介入や、適切な療育方針や態勢の確立が重要となります。医療的介入の第一歩として、きちんとした診断をつけることが挙げられます。
 診断名、重症度が把握されることにより、子どもさんそれぞれの特性に合わせた対応が可能となります。
 また、診断を受けることにより、療育手帳などの福祉サービスが受けられる場合もあります。保育園では、その子のための支援員などの人的援助が受けられたり、学校では特別支援学級の設置が可能になることもあります。

 診断は、児童精神科医や臨床心理士などの専門家により成されますが、子どもさんの保護者(多くの場合ご両親、ご両親のいずれか)が、診察や検査を受けることさえ拒まれることがあります。
言葉では表わせない、いろいろな想いがあるかと存じます。
しかし、レッテルを貼るだけが医療の目的ではありません。子どもさんにとってのよりよき環境をつくるための、大切なステップとお考えいただければと思います。

 ただ、残念なことに。
 診断がついても、その後の療育や保育についての適切なアドバイスが成されないケースが少なからずあります。発達を支援する専門施設に関われればいいのですが、それさえもなく、保護者もどうしたらいいかわからず右往左往している状況。そのような時こそ、地域の医療機関や行政がしっかりとした方向づけのお手伝いを心がけたいものです。

 それ以上に困るのが、軽度発達障碍にありがちな、症状が軽度、それでも保育園や幼稚園、学校での集団生活に差し障りがある場合です。診察や検査を受けても、「・・・の疑い」病名しか下されない、具体的な(対応に関しての)アドバイスもなく、「しばらく様子を観てください」としか伝えられなければ、保護者も、園や学校も困り果てるしかありません。

 診断をつけたのならもちろんのこと、診断がつけられない状況でも、その子どもさんに対してどのような対応、どのような発達支援をすべきかを、しっかりと提示していただきたい。

 言い換えれば。
(やや言い過ぎの感があるにしても)支援がきちんと成され、子どもさんの発育に適切な環境が整えられるのであれば、診断名などどうでもいい、ということにさえなります。
自閉症であれ、注意欠陥多動性障碍であれ、必要とされる適切な支援の手を差し伸べることを最優先に考えるべきです。
診断をつけるだけで終わってはいけません。満足してはいけません。
子どもさんにとっての安心できる居場所づくりこそ、何より重視したいものです。

  支援のための診断なのです。
  支援なき診断は無意味です。

 

次へ→ 子どもたちのこと

 

▲ ページTOP

子どもたちのこと

ある家族の風景

  ちょくちょくいらっしゃる、小学5年の姉と3年の弟です。二人とも、いつもニコニコ。咳してても、とびっきりの笑顔で診察室に入ってきます。

  先週は、インフルエンザワクチンでした。弟のK君が、学校にオーストラリア人の女子留学生が来て英語を教えてくれたが、友達のなんとか君がどうも彼女に「恋」をしてしまったらしいんですと、身振り手振りで話してくれたのがなんともおかしく、おねえちゃんとお母さんと僕とナースで大笑い、接種までに15分はかかりました。

  昨日、お母さんが喉の痛みでお一人でいらっしゃいました。
「お宅のお子さんたちはいいですね。生き生きしてる。こっちまで楽しくなります」とお伝えしたところ、弟の方はどこにいってもあの調子のペラペラ君で、何云い出すかと心配なんですと、それでもまんざらでもない様子。

「子育てされてて、何か心がけてるようなことありますか?」
「別にないですう」
「二人とも、お話が面白いんですよ。話ってのは、相手の気持ち読みながらじゃないと出来ないもんです。それだけ話しなれてるってことでしょうね」
「ええ、家でもとにかくよく話します。みんなで」
「どんな時?ごはんの時とか?」
「ごはんの時もそうですけど、お風呂とかでも」
「お風呂?ああ、おねえちゃんと二人で入るわけですね」
「いえ、ウチはみんなで入るんですよ。今でも、4人で。お父さんも一緒です」
「はっ?」
「変ですよねえ。小学生なのにまだ一緒に入るのって」
「いやいや、いいんじゃないでしょーか。入るうちは一緒に入っても。そのうち一人で入るって云い出す時は来るでしょうけど・・・」

  と言いつつ。
  けっこうびっくりしました。普通にさらっとおっしゃってから、ちょっと恥ずかしそうにしてましたけど、別にどおってことはない感じでしたし。

  いいもんだなと思いました。
  わいわいがやがや。みんなで一緒にお風呂に入る、家族の風景。

  やっぱりね。
  「親」なんですねえ。今さら気づくことでもありませんが。

  性的虐待なんてのとは、程遠い話です。

  ちなみにこのお母さん、K君が「一人で入る」と云う日がいつか来ることを考えると、やたら寂しくなるそうです。

 

タッキー・プロジェクト

 ある不登校児との関わりを紹介させていただきます。

 主人公は、小学6年生男児。ニックネームは「タッキー」。
 父親はサラリーマン、母親はパート勤務の主婦。どちらも、実直過ぎるほどのキャラクター。
 中学二年のやや気の強い姉、小学3年のちょっと甘えん坊の妹。それに、4年前から父方の祖父母と同居生活。7人家族。

 4年生から、ソフトボールのスポーツ少年団に入っておりました。試合直前になると腹痛やめまいを訴え、父親は、本番に弱い子だなと感じてはいたそうです。体は小さいものの、動きは機敏でボールさばきも上手く、ショートで1番打者。例えれば、「牛若丸」というところでしょうか。

 2学期の後半から「喉がつまる感じ」はあったそうです。
 冬休みに入った12月27日、かねてよりの希望だった東北遠方の叔母宅までの一人旅を決行。途中の新幹線の中、突如、吐き気と腹痛が出現。強烈な不安感に襲われ、それ以来、ダメになりました。

 3学期がはじまっても、朝になると同様の症状が現れ、体が動かなくなる。ひどい時には両足が震え、意味不明の言葉を叫び続ける。
 不穏状態です。
 以前からのかかりつけ小児科を受診したところ、ただ事ではない様子に、すぐさま某総合病院を紹介されました。脳CT等、一通りの検査を行ったところ、身体の病気は否定され、精神科へ廻されました。抗不安薬、抗うつ薬の処方を受け、本人・家族への指示は、
「無理に登校する必要はない。行きたくなったら行けばよい。周囲も登校を無理強いしてはいけない」。
 診断名は、「パニック障碍」。

 2月半ば。タッキーが母親(以下、タッキーママ)に連れられ当院を受診しました。タッキーとは、その時が初対面でした。ママは何度か風邪で受診されたことがあります。
 受診の前日、タッキーママから電話をいただいておりました。
「もう、どうしたらいいかわかんなくて・・・。これから、どうなっちゃうのでしょうか。精神科の先生は、行かせるなっていうだけだし。だけど、もうすぐ卒業式だし・・・。このままでは、あの子駄目になってしまうんじゃないかと・・・」
「かかりつけの先生は、なんと云ってますか」
「いやもう、『自分の専門ではないから』とおっしゃって、専門の先生のおっしゃることを聞くようにと」
「そうですか。いやまあ、そういうことはどんな子にもありますからねえ。慌てなくとも、なんとかなるもんですよ。ともかくね、息子さんと一緒に、一度ウチにいらっしゃってください。軽い気持ちで」
 よくある相談事に、僕は笑って答えました。
 しかし、笑っていられる場合ではありませんでした。
 診察室の中、タッキーを前にして我が目を疑いました。そわそわと落ち着きがなく、両足は常に貧乏ゆすり。よだれが溜まるらしくタオルを手放せず、近くに水分がないと不安になるため、イオン飲料のペットボトルも常備。周期的に起こる吐き気と腹痛のために、「グェッ」と叫び声を上げ身をよじります。

 会話は、普通に可能でした。
「これでも、大分落ちついたんです」
と、ママ。
 それなりに落ちついたのは、精神科よりの投薬の効果と思われました。その時点で、通院は総合病院より他の精神病院へ移っておりました。
 学校には行けそうな時行ったりするが、まず保健室へ直行する日々。教室へ行っても耐えきれず、保健室へ逆戻りがほとんど。養護の先生に相手してもらっていたが、ここ2週間は行けない日がほとんど。

 まず、診察→腹部エコー・腹部レントゲン検査を行ってみました。異常がないことを、自分なりに確認したかったからです。当然ながら、異常なし。
 二つのことを考えました。
 一つは、定石通りに、身体の病気に対する本人、家族の不安を取り除くこと。こんな時、患者さん本人もご家族も、「何か悪い病気が隠れているのではないか」ということを気にしがちです。その不安が取り除かれなければ、精神科のお薬を飲んでも、完全に善くなることは少ないのです。
 大脳の構造と働きとか、ストレスが自律神経に及ぼす影響など、淡々と説明
しました。
「わかった?」と聞いたら、
「ムムムムム、難しすぎる」
「そうか、まあ、しょうがねえかな」
 本当は、タッキーより、タッキーママにわかって欲しくて話しておりました。
 タッキーもそうですが、それ以上にママが動揺していたのはアリアリでしたから。

 もう一つは、パニック障碍に対する周囲の理解です。
 学校側も困惑していたようです。
 養護の先生とは、それまでもいろいろなことで、主に電話でしたが、お話しさせていただく機会がありました。
 ミドリ先生(30才台前半)。顔見知りと云えば、顔見知りです。
 翌日、電話してみました。
「実は6年○組の、○○○○君の件で・・・」
途端、
「タッキーのことですね。困ってるんですぅ。今、登校は無理でも、お母さんは卒業式には出させたいって思ってらっしゃるようですしぃ。私達も、出て欲しい気持ちは同じでぇ・・・」
 打てば響くような反応でした。

「タッキー自身は、どうなんでしょう。出たいのかな、出たくないのかな」
「日によってマチマチですぅ。出たいという日もあれば、ダメだってふさぎ込む日もあってぇ・・・。一定しません」
「そうですか。でもね、これはまず本人の意志を尊重せねばならないわけでね、周りが指図することでないわけですから、出ろとか出るなとか、登校することにしても、絶対に無理強いしてはいけないんですよね。でもなあ、親としては、せめて卒業式には、と思うだろうしねえ」

「卒業式、いつでしたっけ」
「3月20日です」
「あと、1ヶ月?」
「そう、あと1ヶ月・・・」
「でも、あと1ヶ月もあると考えれば、なんとかなるかも」
「そうですけど。大丈夫でしょうかぁ」
「わかんない、でも、やるだけやってみましょうよ」
「はぃぃぃ」
 ミドリ先生、嬉しそうでした。
 ちょうどその頃、NHKで「プロジェクトX」というドキュメンタリー番組が人気を博しておりました。毎回、難問に挑戦し、成功を手にした日本人を紹介する内容です。
 何故かしら、気持ちが高ぶりました。
 その時点で、学校と僕と家庭との、プロジェクトチームが結成されたわけです。
 名付けて、「タッキー・プロジェクト」。

 タッキーとは、週に一回、診療が終わった夕方6時に会う約束をしました。
 タッキーママの仕事の都合もあるでしょうから、特に曜日は決めずに、来られる時に来ればいいということで。
 面談の際は、本当に(学校へ)行きたい気持ちはあるのかに焦点を当てました。
「行きたい」のではなくて、「行かねばならない」のではないか。
 或いは、「行って欲しい」という周囲の期待に応えようと、無理しているのではないか。
 いろんな聞き方をしてみました。
 答えはいつも同じでした。
「(クラスの)みんなの顔が見たい。みんなと一緒にいたいんだ」

 2月末から3月上旬にかけて、なんとかですが、週に2、3度登校出来る日が出はじめました。行けた日は、実に誇らしげな生き生きとした笑顔で、帰りにウチに寄ってくれたりしました。
 喜んでいた矢先です。
 3月6日(木)、体育館での「6年生を送る会」に出ようとしたところ、突然「怖く」なり、震えはじめたそうです。

 8日(土)午後、タッキーママからの電話。
 木曜日の事がずっと尾を引いている。皆の前で醜態を曝してしまった。失敗したという想いでこり固まっているようだ、と。
 タッキーママ、「どうすればいいかわからない」と、自分も泣き声。
 すぐに来てもらいました。
 泣きじゃくりながら入って来るタッキー。
「情けない、情けない、悔しい」を連発。
 取りあえず、安定剤の点滴をはじめました。

 その後も、抑制が利かなくなると点滴で落ち着かせ、学校へ行く日の朝など、危なそうだったらウチに寄ってから保健室へというパターンが、何回も続きました。
 点滴で(不安を)誤摩化そうとするやり方もどうかと思いましたが、他になす術がありません。
「頑張んなくてもいいからな。逃げたくなったら、逃げりゃあいいんだ。逃げるのは、恥ずかしいことではないんだよ」
 そんな言葉を繰り返しました。

 アドバイスを求め、精神科主治医へ電話したのが3月11日(火)です。
 面識はないものの、2月末の精神科受診の時、タッキーママに手紙を持っていってもらっておりましたから、こちらの存在は認識しているはずでした。まして、精神科受診は2週後です。遠慮している場合ではありませんでした。
 精神科の見解としては、ベースにADHD(注意欠陥多動性障碍)が存在しているとのことでした。
 刺激すべきではないと。
「行きたい」という言葉も、多動の症状の一つである。元々、強迫観念の強い性格のため、「行く」こと自体が本人の負担になっている。
 行きたいと言っても、今は行かせない方がよい。

 かなり意外。
 悩みましたねえ。
 このまま突っ走ることが、果たしてタッキーのためになるのか。
 卒業式に出ることが、タッキーにとってどれほどのことなのか。
 重く感じているのは、僕たち大人のエゴじゃないかと。
 そんなもん出なくても、どーでもいいことじゃないかとも、思ったりして。
 無理に出たことで、失敗して致命的な傷を残したらどうしよう。

 13日(木)には、ミドリ先生へ電話です。
 学校側として、出させなくてはいけない体裁はあるのか。出るか出ないか、いつまで回答すればいいか。本音の部分を教えて欲しい。
 出られるのであれば、当然出て欲しい。
 決定は、当日朝でけっこうです。
 出られるバージョン、出られないバージョンの二つで、生徒たちは練習しますから。
 出られないならば、無理はさせたくありません。
 本人がそれでもいいのなら、校長が、保健室でも自宅ででもいいから、直接卒業証書をお渡しすると申しております。

 彼女が、そこまできっぱりと言い切ったのは驚きでした。
 学校とは、もっと形式にこだわる所と思っておりましたから。
 ミドリ先生、頑張ってくれていましたよ。
 校長先生も立派です。
 彼女が動きやすいよう、環境調整をしてくれていたに違いありません。
 学校は、校長次第で善くも悪くもなります。

 もっとも、式を10日後に控えたその時期、一番弱気になっていたのは僕でした。
 ミドリ先生は元気。そして前向き。
「無理なものは無理かなあ。ヨケーなことさせない方が、アイツ楽になるかもしれませんよ」
 電話での僕の言葉にも、ひるむ様子はありません。
「でもぉ、今日は体育館まで行ってぇ、中には入れませんでしたけどぉ、外からぁ、みんなが式の練習するの覗いていたしぃ。ワタシは当日まで待ってみたいと思いますぅ!」
 とにかく、すごく元気。
 式の途中でダメになったら、こっそり抜けられるようにステージのそでに暗幕を張り、裏から外への逃げ道までつくっちゃったとのことでした。
 ママもママで、どこかで吹っ切れたのか、
「本番でダメでも、いいんです。失敗したら、それはそれで経験です」なんてはじまるし。
 常々思っていることですが、女って強い。
 負けらんねえな。
 二人に引きづられ、思わず開き直る僕でした。

 いよいよ、式前夜です。9時過ぎに、タッキーママから電話がありました。
「お腹痛いって・・・」
 きたよきたよ、やっぱりきたよ。
 相当のプレッシャーの中にいるのは当然です。
「ずっと傍にいて、抱きしめてあげてください。今夜は、みんなで一緒に寝てください。明日の朝、いつものようにウチに寄ってください。開けて待ってます」

 一番恐れていたのは、中途半端に事情を知っている人が、「なんで休んでたの?」、「卒業式には出て来たんだぁ」とか、不用意な一言を投げかけることでした。
 いませんか?そういう人。心配気な顔をする割に、実はなんにも考えていない人。
 どれほど勢い込んで臨んでも、そんな一言でポシャるに違いありません、今のタッキー。
 当院かかりつけの患者さんの中で、タッキーと同級生の親や、スポーツ少年団関係者、数人に電話しました。
「別に、何を頼むというわけではないんです。詳しいことは云えないが、特別な状況なわけでね。とにかく、気にかけて欲しい。何かあった時の、周囲の目の盾になって欲しいんです」

 タッキー・プロジェクト。
 フィナーレに向け、秒読み開始。

 当日の朝、僕は6時に起きました。
 いつ電話があっても、即対応出来るように、温水で両手を温めました。
 点滴のためです。
 でも、来ない。
 諦めたのか?
 どう云えばいいんでしょうね、ああいう時の、イライラした気持ち。
 ようやく電話があったのは、8時20分。
「夜はまるで眠っていません。朝になったら、震えが止まらなくなっています。先生のとこへ行こうって言っても、動こうとしないの」
 どんより落ち込んだ、タッキーママの声。
「わかった、とにかく連れて来い。こっちへ来てから考えよう」
 式開始は10時。卒業生は、9時半に集合です。
 ここに来ても、1時間もいられません。
 何が出来る?

 パパとママに抱えられるようにして、ようやくタッキーがやって来ました。
そのまま真っ直ぐ処置室へ。
 とにかく点滴。落ち着かせるまでの時間稼ぎです。
 予想を超えた、最悪の状況でした。
 ベッドに横たわるタッキー。
「ううううう」とうめき声を上げ、両足をぶるぶる震わせ、目はうつろ。
 こんなに苦しませてまで、式に出させる意味があるのか?

 再び、迷いが生じました。
 でもね、聴いてみたんですよ。
 「どうする、卒業式出るか、止めるか。止めてもいいんだよ。卒業式がなんだっつうんだ。出たくなければ、出なきゃいいだけだぞ」
 するとタッキー、僕を睨みつけて言いました。
「出たい!出たい!だけど、怖い!」
 涙ボロボロです。泣きながら、でも出たいって。
 ambivalence!
 僕の中で、いつもは静かに眠っているマグマのようなものが爆発しました。
「行きたいんなら、行けばいいじゃねえか!グジグジ考えてんじゃねえんだよ!」

 病院時代の、ある患者さんのことを思い出しました。
 急性白血病。27才、ヨシコさん。
 白血球も血小板もどん底なのに、子どもの七五三のお祝いに外出したいと、夜中の病室で泣いたんです。こんな風に。
 医者としての常識で考えれば行かせるわけではなかったし、行かせようとした僕を、一部から「ヒューマニスト気取りで、患者の身体のことを考えていない」という批難の声が上がっていたのも知っています。
 でも、僕は外出を許可しました。
 ヨシコさんの、母としてのプライドを守りたかった。

 あの時と同じです。
 ヨシコさんとタッキー、どちらも僕の患者です。
 医者は、患者のプライド守り抜いてなんぼのもんです。
 枕元に覆いかぶさり、タッキーの額に自分の額をガツンガツン押しつけ囁きました。
「おまえは誰だ?名前言ってみろ」
「○○○○○○○、○○○○○○○です」
「おまえは何をしたい。何のために生きている」
「卒業式に、出たい」
「もう一度」
「卒業式に出たい!」
「もっとでかい声でもう一度」
「卒業式に、出たいんだよお!」

 こんなにも、他人の子どもを愛おしく思ったのははじめてです。
 我慢できませんでした。
 涙が溢れ、声が震えた。
 いいんですよ、精神科がどうおっしゃっても。
 パニック障碍?ADHD?
 だからどうした。
 アイツの、心の奥底から吹き出して来る魂の叫びを、僕は聴いたんです。

 隣のベッドでは、スキーツアーの東京の大学生が、バスの中で気持ち悪くなったと、点滴していました。
 つくづく、変な診療所と思ったでしょうね。
 従業員たちも、いつもはエヘラエヘラの僕の様子がおかしいので、ビビりまくっておりましたし。

 わかりました。
 引き延ばしてごめんなさい。
 結論から言います。
 うまくいきました。
 プロジェクトは成功した、と云えるでしょう。
 タッキー、みんなと一緒に卒業式の場に立てました。
 卒業式という、かけがえのない時間をみんなと共有出来たのです。
 3人がウチを出た後、すぐに学校へ電話。
 玄関で待っていたミドリ先生に迎えられ、まずは保健室で一呼吸置いてから、体育館へ。
 さすがに、皆の前で校長先生から卒業証書授与、とまではいかなかったようです。
 でもね、その後の「呼び掛け」では、ずっと列の中で立ち続け、最後の退場までこなしたそうです。
 終わった後、校長室でミドリ先生と担任教師と両親に見守られながら、堂々と卒業証書を受け取り、あろうことかその後の謝恩会にも出席。
「一人一言」のコーナーではステージに上がり、
「僕は、1月から学校に行けなくなった。中学になったら、ちゃんと行けるようになりたいです・・・」
と話したというから、驚きました。
 出来るなら、みんなと一緒に卒業証書を受け取らせたかった気持ちはあります。
 でもね。いいではないですか。十分です、これで。十分過ぎます。
 僕は満足しています。

 昨今の教育現場で、タッキーのようなケースは珍しくありません。
 症状発現→かかりつけ医受診→病院紹介→身体的疾患否定→精神科紹介。
 病院紹介の時点で、子どもは地域の手から離れるのが現状です。精神科通院となれば尚更です。学校は、腫れ物に触るみたいに子どもに接し、「登校刺激は悪」という精神科医の言葉に逆らえず、かかりつけ医は専門性の遠慮から何も言えない。
 それでも、どこかで立ち直ってくれればいいんです。
 立ち直れず、引きこもりに陥るケースが多いわけで。

 似たようなケースで悩んでいる、養護教諭、町医者、親、きっといる筈です。
 頑張って欲しい。
 自分がしたことを、決してひけらかすわけではありません。でも、ミドリ先生も僕も、よくやったと思います。
 怖がらずに、やれば出来ることを知って欲しい。
 ミドリ先生にしても、担任教師も、誰にも云えないところで、どれほど自分を責め、悩んだことか。

 そして。
 月日が経つのは早いものです。あれからもう、9年になります。
 その後のタッキーは、中学から高校と進む中、幾度となく挫折を味わい不登校を繰り返し、精神科の病院やクリニックを転々とし、それでもなんとか高校を卒業し就職しました。昨年の震災では、テレビから流れる津波の映像に驚愕し、一時は引きこもりに陥りましたが、再びまた立ち直り、現在はサービス関係の職についております。
 風邪を引いたとか、じんましんが出た。なんということはないことで、時々当院を訪れ、近況報告をしてくれます。
「お客さんの中には、変な人もいるんですよ。どう考えてもお客さんの勘違いとか思い違いで、なんでこんなことで怒るのかなと思うんですけど、まあ、一応謝っとけばいいかなって。『申し訳ございません』って言っとくと、それで収まるんだから、楽なもんすよ。ハハハ」
随分と、大人になったものです。
子どもは、いつまでも子どものままではないのですね。進歩し、成長するのです。子どもの進歩を信じ、寄り添い見守ることが、僕たちの務めなのでしょう。

 ここまで読んでいただきまして、どうもありがとうございます。
 出来るだけ簡潔にと、意識して書いたたつもりが、こんなになってしまいました。
 人生のプロジェクトに、終わりはありません。
 タッキーとのお付き合いは、まだまだ続きます。
 それがまた、知らないうちに自分のためになっています。
 

次へ→ 子育て支援セミナーについて

 

▲ ページTOP

子育て支援セミナーについて

 平成16年より、二本松市役所隣の保健センター2階・「子育て支援センター」にて、2ヶ月に1回のペースでセミナーを開催しております。参加費無料。

 セミナーのテーマは、支援センターの担当の方がみなさまにご意見を伺ったり、最近はアンケートを取らせていただき決定しております。

 平成22年度より、原則として偶数月の第一木曜日、午後3時から1時間半程度の開催としております。

 これまでの開催テーマは下記です。
毎回、参加者は10人前後。堅苦しくなく、ざっくばらんな集まりです。

 テーマ以外のことでも、疑問に思っていること悩んでいること心配なこと、なんでもかんでもご質問いただきます。

 最後は、絵本の読み聴かせをさせてもらっております。
ご都合のつく方、是非ご参加ください。

No 月日 タイトル
1 16 7月5日 子どもにありがちな急性疾患
2   8月2日 アレルギー疾患について
3   10月4日 子どもの発達と事故
4   12月6日 インフルエンザと上手な病院のかかり方
5 17 2月7日 受動喫煙の害・禁煙支援について
6   4月4日 子どもの睡眠~どうして眠ってくれないの?
7   6月6日 おむつはずし
8   8月1日 ちょっと気になる子ども
9   10月3日 ワクチンの話
10   12月5日 発熱時の対処と水分補給
11 18 2月6日 きょうだいの心
12   4月3日 ぜんそく
13   6月5日 子どもの事故と新しい創傷治療
14   8月7日 子どもの皮膚の話
15   10月2日 子どものくすり
16   12月4日 インフルエンザ
17 19 2月5日 冬のカゼ
18   4月3日 メディア漬けの子どもたち
19   6月5日 禁煙支援
20   8月6日 子どもの慢性の病気
21   10月2日 発熱時の対処と水分補給
22   12月4日 冬のカゼ
23 20 2月5日 チックと落ちつきのない子
24   4月3日 春から夏へかけて多い病気-上手な救急外来のかかり方-
25   6月19日 子どもの傷の手当てと予防
26   8月7日 母乳の話(福島市いちかわクリニック 市川陽子先生)
27   10月2日 子どもとメディア
28   12月8日 冬のカゼ
29 21 2月12日 子どものスキンケア
30   4月2日 春から夏にかけての子どもの病気
31   6月4日 メディア漬けの子どもたち
32   8月6日 日常生活で起こりやすい病気、熱・風邪・傷などの対処法について
33   10月15日 冬のカゼ
34   12月3日 お薬の話~お薬を飲めばいいと思っていませんか?~
35 22 2月25日 子どものスキンケア~乾燥肌などへの対応について~
36   4月1日 春から夏にかけての子どもの病気
37   6月4日 予防接種について~ワクチンの種類、気をつけることなど~
38   8月26日 ウェット療法について
39   10月7日 秋から冬にかけての子どもの病気
40   12月2日 子どものスキンケア
41 23 2月10日 上手な医者のかかり方
42   6月2日 予防接種について~ワクチンの種類、気をつけることなど~
43   8月4日 子どもの睡眠について
44   10月27日 秋から冬にかけての子どもの感染症
45   12月1日 子どものスキンケア~乾燥肌、敏感肌などの対応について~
46 24 2月9日 ちょっと気になる子どもの様子~ちょっと心配な行動や症状はありませんか~
47   4月12日 「予防接種について」~ワクチンの種類、気を付けることなど~
48   6月7日 「慢性疾患について」~アレルギー、アトピー、喘息など~
49   8月2日 「新しい傷口の治療方法」~消毒液に頼りすぎていませんか?~
50   9月27日 日常生活で起こりやすい病気やけがの対処法
51   12月26日 「子どものスキンケア」+「甲状腺検診~A2判定を巡って~」
52 25 2月7日 「ちょっと気になる子どもの様子」~心配な症状や行動はありませんか?~
53   4月25日 「放射線について」~外部被ばく、内部被ばく、甲状腺エコー検査への不安~
54   6月6日 「発達について」~ちょっと気になる子どもの様子や行動はありませんか?~
55   8月29日 「子どもの睡眠について」~どうして眠ってくれないの?~
56   10月31日 「子どものスキンケア」~乾燥肌、敏感肌、アレルギーなどの対処について~
57   12月12日 日常生活で起こりやすい熱、風邪、傷などの対処法~こんなときどうすればいいの?~
58 26 5月1日 「お薬のはなし」~お薬を飲めば安心と思っていませんか?~
59   7月17日 「メディア漬けの子どもたち」~テレビ、スマホに子守りをさせていませんか?~
60   10月23日 「子どものスキンケア」~乾燥肌、敏感肌、アレルギーなどの対処について~
61   12月11日 「ちょっと気になる子どもの様子」~心配な症状や行動はありませんか?~
62 27 2月5日 「アレルギーについて」~咳、鼻水、発疹etc…何の症状?~
63   4月30日 「放射線について」~原発事故から4年・・・外部、内部被ばく量や甲状腺検査のことなど~
64   6月25日 「熱中症、日射病について」~熱中症と日射病の違い、処置や対応の仕方について~
65   8月27日 「子どもの発達について」 ~月齢別にみた子どもの発達や様子について~
66   10月29日 「お薬のはなし」 ~お薬の上手な利用方法~
67   12月10日 「アレルギーについて」 ~アレルギーの種類、対処の仕方など~
68 28 2月25日 「日常生活で起こりやすい熱、風邪、キズなどの対処法」~病院へ行くタイミング・・・こんなときはどうすれば?~
69   4月21日 「春から夏にかけて気をつけること」~紫外線、虫刺されなどの皮膚の予防と処置について~
70   6月23日 「夏の事故と応急処置」~水遊び、花火などの事故、いざというときの知識~
71   9月1日 「発達について」~月齢別にみた子どもの気になる様子や行動~ 中止(出張甲状腺超音波健診参加の為)
72   10月20日 「発達について」~月齢別にみた子どもの気になる様子や行動~
「秋から冬にかけて気をつけること」~感染予防やスキンケアについて~
73   12月22日 「メディアの上手な活用法」~メディア漬けの予防は乳幼児から~
74 29 2月23日 「子どもの食事と睡眠」~食べてくれない、寝てくれない~
75   4月20日 「アレルギーの種類、症状」 ~判断と対応の仕方~
76   6月15日 「メディアの影響」 ~乳幼児期からメディア漬けにしていると・・・、どうなる?~

77

 

8月24日

「応急処置について」~事故やケガ、いざという時の知識~
78   10月19日 「日常生活で起こりやすい病気の対処法」
79   12月21日 「子どものスキンケア」~乾燥肌、敏感肌などの対応~

 

▲ ページTOP